どうも、週刊素馨ディレクター、もう一度言います。「週刊素馨ディレクター」のロングタイム雪之丞と申します。もちろん本名です。この度編集部の仏様に、不肖私のような者にも執筆の機会を与えて頂き、この記事を書いています。四連休最終日に。
自己紹介はこの辺りにして、本題へ移りましょう。誰も不肖私の正体など知りたくはないでしょうし。
さて、本シリーズは我々日本人が後世まで残してゆくべき、邦楽の「名盤」をご紹介していきます。なお、ジャケットは権利の関係で掲載出来ないことは先に断っておきます。記念すべき第一回目は、はっぴいえんどの「風街ろまん」。まずはこのアルバムの基本情報から見ていきましょう。
タイトル:風街ろまん ミュージシャン:はっぴいえんど プロデュース:はっぴいえんど、アート音楽出版 発表年月日:昭和46年11月20日 レーベル:アングラ・レコード・クラブ(URC) 収録内容:1. 抱きしめたい 2. 空いろのくれよん 3. 風をあつめて 4. 暗闇坂むささび変化 5. はいからはくち 6. はいから・びゅーちふる 7. 夏なんです 8. 花いちもんめ 9. あしたてんきになあれ 10. 颱風 11.春らんまん 12. 愛餓を 備考:2枚目のスタジオ・アルバム
古いです。大変古いです。しかし、「古臭いから聴きたくねぇ」といった人は考えを改めた方が良いです。それでも「聴きたくない!」という人はブラウザバックして、「香水」でも聴いて下さい。
まず本作品を発表した「はっぴいえんど」。一体どんなバンドなのでしょう。一言で表すと「伝説のバンド」です。これ以降の我が国の音楽シーンを牽引する、大滝詠一(Vo,Gt etc.)、細野晴臣(Vo,Ba etc.)、松本隆(Dr etc.)、鈴木茂(Gt,Vo)という音楽好きが見たら全身が濡れるような、そんなメンバーが集まっています。私も書きながら濡れています。
前提がわかったところで、このアルバム、いかに凄いかを解説しましょう。このアルバムは、「日本語ロック論争」に終止符を打ったアルバムといえます。では肝心の「日本語ロック論争」とは何なのか。簡単に言えば、「日本のロックを日本語で歌うか英語で歌うか」の論争です。彼らがはっぴいえんどとして活動していた、1960年代後半~1970年代前半にかけて巻き起こりました。「日本語はロックに向かない」そんな議論に終止符を打つ程の美しい歌詞と曲を多数収めた、そんなアルバムが「風街ろまん」なのです。このようなことを言うと過激派から、「そんなことはない!ジャックス等がその前にやっている!」と反論されそうですが、日本語ロック論争からの時系列的な観点で、私は「はっぴいえんど史観」に立って論じました。
そしてもう一つ指摘したいのが、シティポップアルバムとしての意義です。まず大前提として、アルバム全体としてのコンセプトは「東京の風景」にあります。そう。「風街」は東京を表しているのです。そういった意味で本作「風街ろまん」は、シティポップの源流ともいえるのではないでしょうか。
歴史的意義の次は曲を見ていきましょう。その「風街」を映し出した松本隆さんの歌詞が素晴らしいんです。幾つか引用してみます。
「空いろのクレヨンできみを描いたんです そっぽを向いた真昼の遊園地で
花模様のドレスがとても良く似合うんで ぼくのポケットにはいりきらないんです」
(空いろのくれよん)
「とても素敵な 昧爽どきを通り抜けてたら
伽籃とした防波堤ごしに 緋色の帆を掲げた都市が 碇泊してるのが見えたんです」
(風をあつめて)
「ところは東京麻布十番 折しも昼下り 暗闇坂は蝉時雨
黒マントにギラギラ光る目で 真昼間っから妖怪変化」
(暗闇坂むささび変化)
『風街ろまん』/はっぴいえんど
月並みな表現かもしれませんが、今目の前に50年前の東京があるかのようです。いや、確かにそこにあります。「空いろのくれよん」では、様々な色に満ちた「きみ」を間近で眺める情景、一方で「風をあつめて」や「暗闇坂むささび変化」では、昼下がりの東京の日常が生き生きと描かれています。更にその日常を「全体像」と「局地的」な物で描く。こんなにも情景を美しく、多様なタッチで描いた歌詞は、世界中のどこを探しても我が国日本、それも松本隆さんにしか描けないでしょう。また、日本語の語幹を生かしたですます調の歌詞も大きな発明です。
「風街ろまん」は歌詞と同時に、曲も素晴らしい。作曲は基本的に細野さんと大滝さんがしていました(「花いちもんめ」は鈴木さんの作品)。
アルバムを再生すると複雑なベースとドラムの絡みが鳴り、鈴木さんの歌うようなエレキの音が鳴る。「抱きしめたい」は物悲しげな楽曲です。しかし、大滝作品「空いろのくれよん」、細野作品「風をあつめて」「暗闇坂むささび変化」で昼の東京へ一気に連れて行ってくれます。そこから大滝さんのユニークさが垣間見える「はいからはくち」「颱風」や、鈴木さんのギターソロが鳴り響く彼の自作曲「花いちもんめ」など、各々の個性を炸裂させ、「風街」を体現している作品が多数。そこにメンバー全員のアンサンブルが乗っかり、ヨダレ必至、たまらないフォークロックサウンドが味わえます。
如何だったでしょう。文字だけでも楽しめたでしょうか。楽しんで頂けたのならばそれは喜ばしいことですが、文字に留まらず、是非ともこの機会に「風街ろまん」を一聴して頂きたいです。我が国のスーパーヒーロー達が生んだ、至宝。間違いなく貴方の中に、何かが生まれる筈です。